介護・医療関連ニュース
脳や脊髄の難病「多発性硬化症」 原因不明・情報も少なく…患者・家族支援を
田村良彦 田村専門委員の「まるごと医療」
東京都の中田郷子さん(47)は、看護学部の大学生だった時に多発性硬化症を発症し、26年になる。歩行障害などで一時は車いすが必要なほどの状態だったが、治療やリハビリのおかげで何とか日常生活が送れるまでに回復することができた。
病気の情報も少ない不安の中で闘病の力になったのが、発病後に開いたインターネットのホームページを通じ、寄せられた患者や家族、専門医らからの情報や励ましの声だった。将来が見えずに不安だらけだった自分自身を支えてくれたように、今度は自分が、病気の情報がなくて困っている患者や家族のためになりたいと、支援活動に取り組んでいる。
その中田さんが代表を務めるNPO法人「MSキャビン」主催の医療フォーラムが12月15日、東京都文京区の順天堂大学を会場に開かれた。MSは多発性硬化症の英語の頭文字の略称だ。
20~30歳代で多く発病 女性に多く
多発性硬化症は、自己免疫性で中枢神経に障害が起きる病気だ。神経を覆う絶縁体の部分が壊れることで、電気信号がうまく流れなくなってしまう。障害を受けた脳や脊髄の部位によって、歩行などの運動障害、感覚障害、認知機能の障害、疲労などの様々な症状が表れる。一見しただけでは病気だと分かりづらいことも、患者を悩ませる要因という。
20~30歳代で多く発症し、女性に多い。原因不明で根本的な治療法はなく、病状が悪化したり落ち着いたりを繰り返しながら進行することが多いため、薬物治療を続けながらいかに悪化を抑えるかが大切になる。
中田さんが発病した頃にはまだ発売されていなかった、疾患修飾薬と呼ばれる再発予防のための薬が6種類に増えた。自己注射薬、飲み薬、点滴薬と薬のタイプも特徴も色々で、治療の選択肢も増えた。様々な新薬の開発も進んでいる。
視神経脊髄炎(NMOSD)と区別
15日のフォーラムの正式なタイトルは「MS/NMOSD医療フォーラム」。NMOSDとは、視神経脊髄炎の略称だ。
視神経脊髄炎は、多発性硬化症と同じ仲間の自己免疫によって中枢神経に炎症が起きる病気だ。かつては、多発性硬化症の1タイプ(視神経脊髄型)とされていたが、特徴的な抗体の検査法が確立されたことなどによって、多発性硬化症とは別の病気だと考えられるようになった。約2万人とされる多発性硬化症と視神経脊髄炎の患者の2割ほどを占めるとみられている。
病気を発症した際の急性期の治療法は、ステロイドパルス(ステロイド薬の大量点滴)をはじめ多発性硬化症と基本的には変わらないが、大きな違いは再発予防のために行う治療法だ。視神経脊髄炎ではステロイド薬の内服や免疫抑制剤が用いられ、多発性硬化症向けの治療薬を用いるとむしろ症状を悪化させてしまうことが指摘されている。
フォーラムではまた、近年明らかになりつつある「抗MOG抗体関連疾患」についても解説された。
1/2ページ