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遠距離介護“あるある” 認知症の母がなぜ町内会の班長に?
【東京⇔盛岡 40歳からの遠距離介護】#8
近くにいれば何でもないが、離れているが故に思わぬトラブルを招くこともある。
「盛岡のヘルパーさんから、『本日訪問時、町内会の当番札を玄関に下げてきました』と連絡がありました。岩手にいる妹にLINEで連絡してみると、『町内会の班長じゃないの』とのこと。町内会の班長の仕事は、会費の集金や近隣住民の死亡報告、回覧板を作成して回すこと、ゴミ集積所の掃除など。認知症の母にこんな仕事が務まるはずがありません。これは緊急事態。しかし、東京にいてはどうすることもできません。
そこで妹に実家に行ってもらい、班長の関連書類一式を私の部屋に移すように指示しました。認知症の母が書類をどこかになくしたり、廃棄したりする可能性があるからです。そうしておいて、後で私がすべて解決しようと。書類には事務局の電話番号があったので、まずは東京から連絡してみましたが、なかなかつながりません」
それにしてもなぜ、認知症の母親が地域の班長になってしまったのか?
「これは遠距離介護の“あるある”なのですが、私のように30年近く実家を離れていると、ご近所も変わっています。お隣の人に話を聞いてみると、母はしれっと『班長の仕事、やります』と言ってしまったらしいのです。
お隣さんは母が認知症であることは知っていましたが、どのくらいのレベルかまでは深く知りません。玄関先で普通に振る舞う母を見て、連絡員さんが『では、お願いします』となったのも無理はない。帰省後、事務局宅を訪問したのですが、お留守。仕方なく町会全体の会長に連絡をするも、『ご近所さん同士で解決してよ』と取り付く島もないのです」
高齢住民ばかりの地方ではよくあるトラブルなのだろう。
「仕方なく母がやりますと言った現場にいた連絡員さんを訪ね、事情を話すことにしました。子供の時以来、35年ぶりの訪問に『立派になって』と第一声。それはさておき、現在は連絡員ではないとのこと。万事休すなのですが、代わりの班長さん候補のお宅に同行して下さり、一緒に頭を下げていただきました。次の班長さんは介護に詳しく、事情を理解して下さり、班長を引き受けていただくことに。本当にありがたいことです」
身内が認知症であることは、オープンにしづらい。どこまで周知をするのか、そのさじ加減が難しい。
「今回の一件で母の認知症をより広く町内に知らせることができました。町内会もどんどん変わっていくので、また同じことが起こるかもしれませんが、回覧板回しとごみ置き場の掃除を除外してもらうことにしました」
悪質な訪問販売や保険勧誘でなかったことが、せめてもの幸いか。
(工藤広伸/介護作家・ブロガー 構成=中森勇人)