介護・医療関連ニュース

激しい運動をする人がなりやすい「スポーツ性貧血」とは。症状や対策を医師に聞いてみた

最近、「スポーツ性貧血」という言葉を見かけるようになりました。調べてみると、どうやらアスリートや激しいスポーツを好む人がなりやすい貧血のことを指すようです。日々スポーツに勤しむ人にとっては、無視できない病気ですよね。

 しかし、調べていけばいくほどさまざまな情報が氾濫し、結局「スポーツ性貧血」の症状や対策はいまいちハッキリしません。そこで、東芝病院血液内科・総合内科部長である鈴木謙先生に、どういった貧血を「スポーツ性貧血」と呼ぶのか、またその対策などを伺いました。

▲東芝病院血液内科・総合内科部長の鈴木謙先生

▲東芝病院血液内科・総合内科部長の鈴木謙先生

「スポーツ性貧血」はさまざまな要因が積み重なっている

「スポーツ性貧血」とはどういった貧血なのか教えてください。

症状としては、動悸や息切れ、集中力の低下などですね。スポーツの場合、記録の低迷という場合もあります。しかし、ネットの記事などでよく見かける『スポーツ性貧血』については、医学的な観点から見ると、さまざまな要因が重なって起きた症状の総称を言っているように思います。

というと?

激しいスポーツをした場合、食欲が落ちてしまう場合があります。そうすると、十分な食事量がとれず、必要な鉄分量に反して摂取が追いつかなくなります。それから、大量の発汗。普通は汗からの鉄の喪失はあまり問題になりませんが、大量に発汗すると1mgほど鉄が外に出てしまう場合があります。これは、かなりの鉄分を喪失していると言えます。これらは『鉄欠乏性貧血』という貧血を引き起こします。

もう一つは、激しい運動をすることで酸素の消費量が大幅に増えるため、体が順応しようとして血液循環の量が増え、血中のヘモグロビンの濃度が薄くなることがあります。これも『スポーツ性貧血』の要因です。また、激しく走ったりすることで毛細血管に衝撃を与えるとヘモグロビンが破壊されて大量に溶血してしまい、体がヘモグロビンの損失を補いきれません。これもまた要因の一つです。

発汗、希釈、衝撃。さまざまな貧血の要因を総称して『スポーツ性貧血』と呼んでいるのではないでしょうか。

では、医学的な病気として定義づけられているわけではないと。

そうですね。スポーツをやっている人の貧血を『スポーツ性貧血』とまとめるより、まず貧血が起こった要因はなんなのか調べた方が良いと思います。

男性より女性の方が貧血になりやすい

発汗、希釈、衝撃に対して、どういったケアを行うべきでしょうか。

発汗や希釈による貧血は、鉄剤を飲めば治療できます。しかし、衝撃に対する溶血に対しては、鉄剤で補っても良くなりません。運動量を調整したり、衝撃を吸収するようなシューズを履くなどして、衝撃を極力与えないようにする必要があります。

やはり、女性の方がなりやすいのでしょうか。

そうですね。特に20代〜40代の女性は注意が必要です。現在、20代から30代の日本人女性の3人に1人、40代女性の2人に1人は体内の鉄分が足りない『鉄欠乏』に陥っていると言われています。便利でいつでも空腹を満たせる環境のなか、食に対する意識の低下や、過度のダイエットにより十分なカロリーが摂取できていないため、鉄の摂取不足を生じています。しかし、生理があるので体内の鉄は外に出ていくばかりで摂取量が全く追いついていないんです。それに激しい運動要素が加わると、さらに深刻な貧血を引き起こす恐れもあります。

男性が貧血になる場合はありますか?

ありますが、女性に比べて圧倒的に少数です。鉄というのは、基本的に体の外に逃がす方法がありません。生理か、腸の粘膜が剥がれて便として出てくる。それくらいなんです。ですので、男性で『鉄欠乏性貧血』になった場合は胃潰瘍や胃がん、大腸がん、痔など、出血する病気を疑った方がいいと思います。

自分が貧血かどうか疑うことが大切

食生活で気をつけるべきポイントはありますか?

食材にはヘム鉄と非ヘム鉄を含んでいるものがあります。ヘム鉄はレバーや赤身の肉、マグロやカツオなどに含まれていて、吸収率が良く効率的に鉄分をとれます。非ヘム鉄は緑黄色野菜や大豆製品、貝類に含まれています。それぞれ小腸で吸収されるチャンネルが違うので、どちらもバランス良く食べることが大切です。なんでもバランス良く食べて、1日に必要とされるカロリーをしっかりとること。これが一番重要です。

貧血を避けるために、ほかに注意すべき点はありますか?

一度、自分が貧血かどうか疑ってみることが必要だと思います。先ほどもお話したように、日本人女性の大多数は『鉄欠乏』になっています。多くの人は貧血状態が日常化し、自分が貧血だと気づいていないんです。

軽い貧血のアスリートも実は大勢いて、貧血が原因で充分なパフォーマンスができていない場合もあります。しかし、それを治療することで成績が伸びることもあるかもしれません。

繰り返しになりますが、スポーツをする人が貧血になったからといって『スポーツ性貧血』でひとくくりするのは推奨しません。なにが要因なのかしっかり探り、適切な治療を行うことが大切だと思います。


プロフィール
鈴木謙(すずき・けん)
東芝病院血液内科部長、総合内科部長、臨床検査部長。1986年東京医科歯科大学医学部卒。『貧血の人のおいしいレシピブック』(保健同人社)、『貧血の人の基本の食事』(学研パブリッシング)の医学監修も務める

<Text:服部桃子(アート・サプライ)/Photo: Getty Images>