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マウスiPS細胞から皮膚器官系の再生に成功 - 理化学研究所
理化学研究所(理研)多細胞システム形成研究センター器官誘導研究チームの辻孝チームリーダー(東京理科大学客員教授、北里大学医学部客員教授、東京歯科大学客員教授)、株式会社オーガンテクノロジーズの杉村泰宏社長、北里大学医学部の武田啓主任教授、佐藤明男特任教授、東北大学大学院歯学研究科の江草宏教授らの共同研究グループ※は、マウスiPS細胞(人工多能性幹細胞)[1]から、毛包や皮脂腺などの皮膚付属器を持つ「皮膚器官系」を再生する技術を開発しました。
皮膚は生体を防御するほか、汗の排せつなどの機能があり、生体の恒常性維持に重要な役割を担っています。皮膚には、毛包や皮脂腺、汗腺など複数の皮膚付属器が存在し、上皮層や真皮層、皮下脂肪層を持っており、皮膚器官系として3次元的に複雑な構造をしています。皮膚に関わる疾患は、外傷や熱傷、先天性乏毛症、脱毛症、分泌腺異常など数多く知られています。しかし、皮膚器官系が複雑なために皮膚の完全な再生はいまだに実現していません。共同研究グループは、皮膚疾患に対する新たな再生治療法を確立するため、iPS細胞から皮膚器官系を形成する技術の開発を目指しました。
共同研究グループは、マウスiPS細胞から胚葉体(EB)[2]と呼ばれる凝集塊を形成させ、この凝集塊を複数個合わせてコラーゲンゲルに埋め込み、マウス生体へ移植してさまざまの上皮組織を形成する「Clustering-Dependent embryoid Body:CDB法」を開発しました。この移植物内部には、上皮層や真皮層、皮下脂肪層、毛包や皮脂腺を持つ天然皮膚と同様の皮膚器官系が再生されていることを明らかにしました。さらに、このiPS細胞由来皮膚器官系から毛包を10~20本含む「再生皮膚器官系ユニット」を分離し、別のマウス皮下へ移植すると、移植組織はがん化することなく生着し、神経や立毛筋などの周囲組織と接続して、機能的な毛包を再生することも示しました。
開発した手法をヒトに応用するには、生体内移植を経ずに生体外で皮膚器官系を再生する手法へと発展させることが必要です。本研究は将来、皮膚の外傷や熱傷の完全な再生に加え、先天性乏毛症や深刻な脱毛症、皮膚付属器に関する疾患の治癒につながると期待できます。