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歩幅を広くしてスピードアップ! 大股速歩で認知症を回避 軽度認知障害回復奮闘記

 【MCIリバーター 軽度認知障害回復奮闘記】

 最寄り駅まで歩いてたどり着くのにかかる時間が長くなったと感じていませんか。ぼくの場合、60歳を過ぎてから毎日同じ時刻に自宅を出ているのに、乗ると決めた定刻の電車に間に合わないことが続いた。

 東京・荒川区にある自宅から駅までの距離は1キロメートル弱。それまで12分あれば十分だったのに、1分遅れ2分遅れ、軽度認知障害と診断された5年前には悪くすると16分以上もかかった。おまけにときどきつまずいたりするのも気になった。筋トレの本山輝幸さんに相談すると、

 「年を取ると歩幅がだんだん狭くなってきます。前に出す足を1センチか2センチ遠くにほうり出すようにして歩いてみてください。かかとから足が地面につく。すると認知症リスクも減るのです。散歩の習慣はお勧めですが、ダラダラ歩いていても予防効果はない。少し息が荒くなるくらいの速足で」

 といわれた。忠実に実践して少しスピードは戻った。でも駅まではまだ13分かかる。

 4年余り前に「シリーズ認知症革命」と題したNHKスペシャルに出演したときのことだ。打ち合わせで担当ディレクターから、

 「歩く速度が遅くなると認知症のリスクが高まるという海外の研究結果がある」

 と聞いた。番組ではMCの桂文枝師匠と武内陶子アナウンサーがスタジオに敷かれたマットの上を歩く訓練をした。

 「スピードの目安は秒速80センチが認知症リスクが高くなる分岐点だそうです。(日本国内の)横断歩道は通常、秒速1メートル(100センチ)で渡れるように設定されています。これまで楽に横断歩道を渡り切れていたのに、途中で信号が赤になったり、点滅するまでに渡りきれなくなったら危険信号です」

 武内さんが分かりやすく説明した。よく散歩をするという当時72歳の文枝師匠はさっそうと背筋を伸ばして歩く姿を見せた。マットの下には歩く速度を測る計測器が。文枝師匠は秒速105センチと優秀だった。

 「私は落語を声を出さずにしゃべりながらよく散歩しています」

 出演した認知症予防学会理事長の浦上克哉・鳥取大学教授によれば落語を覚えながら歩くのはデユアルタスクにもなって、脳内ネットワークの円滑化に効果的だという。

 脳内ネットワークとははじめて聞いた言葉だが、認知機能が進むと不調になってさまざまなところで機能低下を引き起こすのだという。ぼくがやっている筋トレや音楽療法、芸術療法も脳内ネットワークの乱れを正常に戻す効果が期待できるそうだ。

 番組の中でアメリカの研究者が、「MCIの段階なら発症は予防できる。十分に間に合います」

 と言った言葉を忘れない。意識して大股速歩を続けよう。駅まで12分で歩きたい。ささやかだけど切なる願い。

 ■山本朋史(やまもと・ともふみ) 1952年生まれ。週刊朝日編集委員などを経て現在はフリー。2014年軽度認知障害と診断され早期治療に励む。著書に『悪党と政治屋 追跡KSD事件』『認知症がとまった ボケてたまるか実体験ルポ』など。