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排泄失敗で「ごめんね」…認知症の父の変化に、翻弄される家族
多くの中高年が直面する「親の介護」問題。老人ホームへの入居に抵抗を持つ人も多く、「親の面倒は子どもが見るべき」と親族一同考えがちだ。しかし、フリーライターの吉田潮氏は、著書『親の介護をしないとダメですか?』(KKベストセラーズ)にて、「私は在宅介護をしません。一切いたしません」と断言する。親孝行か、自己犠牲か。本連載では、吉田氏の介護録を追い、親の介護とどう向き合っていくべきか、語っていく。
認知症で表情が柔らかくなった父に、感動する母
◆父、1年半で3階級昇格
私の夫は年1回、元日だけ私の父に会う。夫いわく、「最初はコワモテだったけど、ここのところ表情がどんどん柔らかくなってきた」そうだ。父は俳優の石橋蓮司(いしばしれんじ)に似ている。顔も頭髪も。テレビで蓮司を見るたびに、親近感を覚えていた。ただし、蓮司はセクシー、父はボケジーである。
認知症で表情が柔らかくなると聞いたことがある。「まあちゃん、笑って」と言うと、満面の笑みを見せるようになった。パブロフの犬化、成功。これには私の腹黒い魂胆がある。
今後、介護施設に入り、スタッフさんから愛されるには笑顔と感謝の気持ちが大切だからだ。さらに「ごめんね」と「ありがとう」をちゃんと口にすること。父の施設入居を想定し、笑顔と謝意の訓練をしておこうと、ひそかに考えていたわけだ。
しかしだ、昭和初期生まれの男どもは至れり尽くせりの妻に「ごめんね」「ありがとう」を一切言わない。突然言おうものなら妻たちは天変地異と驚く。
一度父が粗相したときに「ごめんね」と言ったようで、すっかりほだされる母。「生まれて初めてこの人の口から『ごめんね』を聞いたの」だとさ。言っとくが「ごめんね」「ありがとう」は社会生活の基本中の基本ですよ。
さて、そんな父の状況だが、真夏の不法侵入事件を経て、ついに介護認定の区分変更を申請。調査員が家に来て、父の状態を判定してもらうことになった。
まず、3つの絵を見せる。えんぴつ、りんご、ねこ、みたいな簡単な絵だ。この3つを覚えておいてください、と言って、別の質問をふって1分ほど他の話をする。そこで、再び3つの絵のうち、ひとつを隠して見せる。「ここには何の絵がありましたか?」と聞く。たった1分前のことなのに、父は答えられなかった。マジか‼
約3週間後、なんと「要支援1」から「要介護1」に昇格。それでも1か。いよいよ介護の域である。
地域包括支援センターを卒業し、また別のケアマネージャーとの付き合いが始まる。本当なら悲しむべきなのか、でもこれで受けられるサービスの幅が広がるから喜ぶべきか。ただし、区分が昇格すると、基本的な介護サービスに支払う金額もスライド式に上がる。それはつらい。もうなんだかわからなくなってきた。1/2ページ