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胃ろうの人が口から食事 口腔ケアで機能回復(福祉新聞)
富山県魚津市の社会福祉法人海望福祉会は、2009年から三つの口腔ケア技法を特別養護老人ホーム「あんどの里」と障害者支援施設「ひゞき」で採り入れた。あんどの里では4年間で誤嚥性肺炎による入院ゼロを実現。ひゞきの利用者からは「痰が絡まず楽になった」など喜びの声が上がっている。
特養ホームに障害者施設を併設した全国でも珍しい複合施設(大崎雅子・総合施設長)は、あんどの里(定員80人)に、ひゞき(20人)を併設する形で06年に開所した。
口腔ケアに取り組むきっかけは、あんどの里が開所した02年に3・2だった平均要介護度が09年には4・3になるなど重度化が進み、誤嚥性肺炎による入院日数が661日になったこと。「入院中に嚥下機能や足腰の筋力が低下したり、褥瘡ができたりして退院してくる利用者を何とかしたいと思った」と生活相談員の政二恵子さんは振り返る。
誤嚥を防ぐため食事形態を大きく変更。きざみ食、ミキサー食を廃止し、常食、やわらか食、ソフト食、ハーフ食(ソフト食半量+栄養補助食品)にした。また、歯科衛生士事務所「ピュアとやま」(精田紀代美代表)と業務契約を結び、精田代表が開発した「簡単週2回法」「口腔内臓器つぼマッサージ法」「手技で行う咽頭ケアと排痰法」に取り組んだ。
週2回法は、全職員が口腔ケアの基本を学習後、歯科衛生士と職員が一緒に利用者の口腔状態を点検し、毎日のケアに加え週2回念入りにケアする方法。柄の短い歯科医専用歯ブラシや(株)広栄社の舌専用ブラシ「タンクリーナー」などで、口腔内の汚れを取り除く。
つぼマッサージ法は、口腔内のつぼを指で刺激したり、飲み込む時に使う筋肉を引っ張ったりすることで、嚥下機能を回復・強化する。
排痰法は、肺の上部をたたいたり押したりすることで空気の通り道をつくり、絡んだ痰を喉元に出した後、(株)オーラルケアの「モアブラシ」ですくい取る。
開始1年で誤嚥性肺炎の入院は半減したが、2年目は横ばい状態。原因を検証し、ブラシに付いた汚れた水滴を口腔内に落としていることが原因ではないかと考え、ブラシに付いた水滴をガーゼで拭き取り、汚れを一滴も残さず口外へ出すようにした結果、4年目は入院ゼロになった。
■障害者故の難しさも
一方、ひゞき(平均障害支援区分5・2)の口腔ケアは、必要性が高い利用者から順次実施。そこには誤嚥性肺炎を減らすだけでなく、胃ろうの人の口腔機能を回復させ、口から食事を取ってほしいという思いがあった。
しかし、本人や家族がすぐ協力してくれたあんどの里と違い、歯ブラシなど用具代の自己負担が増えることや新たなケアを始めることに抵抗感を持つ人がいた。そこで3技法を試すなど、理解を得るのに時間をかけた。筋緊張や不随意運動がある人にケガをさせないよう、技術も磨いた。
その結果、今では全利用者が毎食後に口腔ケアを受け、歯科衛生士の評価に基づき、個々に適した頻度で舌みがきや排痰法を実施。つぼマッサージは5人が受けている。
45歳の時に脳梗塞で倒れ、車いす生活になった安田亮一さん(56)は、48歳でひゞきに来るまで、昼食がミキサー食、朝夕食は胃ろうからの栄養剤だった。しかし、ひゞきに来て3食とも口から取るようになり、口腔ケアを受け、食事形態もミキサーがゆから全がゆへとアップした。
今では故郷・名古屋のあんかけスパのあんを全がゆにかけて食べたり、外出先でぶり大根を食べたりするまでに口腔機能が回復。「食べることが生きがい。痰が絡んで苦しむこともなくなり、唾液も多くなった」と話す。3技法により口腔内環境は改善。嚥下機能は鍛えられ、痰による不快感も無くなったという。
安田さん以外にも、胃ろうの人がコーヒーを楽しめるようになったり、歯槽膿漏の人の口臭が減少したりした。
一方、利用者の健康状態の変化などにいち早く気付き、次の支援につなげられるようになるなど、職員の意識や観察力は高まった。
「誤嚥性肺炎を起こさないケアをやりきる確信が持てるようになった」と話す政二さん。海望福祉会の口腔ケアは、利用者にはもちろん、職員にも好影響を与えているようだ。