介護・医療関連ニュース

【デキる人の健康学】記憶力の維持に運動が必要 歩行距離や日常活動量の低下が悪影響(産経新聞)

高齢期になって外出の頻度が減ると、記憶や学習などの認知機能が低下することが知られている。外界から脳への刺激が減ることも大きな要因の1つだが、歩行距離や日常活動量の低下が認知機能低下に悪影響を与えていると考えられる。

 学習や記憶では脳の海馬と言う部位が重要な役割を果たすことが知られているが、海馬では高齢期になっても神経幹細胞が再生し続けていることが最近の研究で明らかとなっている。

 興味深いことにマウスの実験では、豊かな刺激の多い飼育環境が海馬の神経幹細胞を分裂・増殖させるが、分裂した幹細胞が安定した神経回路を作るためには運動が必要であることが分かっている。

 オランダ、ラドバウト大学のイエルコ・ヴァン・ドンゲン博士らの研究チームはヒトでも学習活動をした後に運動を行うことで記憶力を改善させることができることを見出した。

 研究チームは72人の被験者を対象に90種類の絵と場所の関連性を40分間学習したのちに、被験者を(i)学習直後に固定バイクで運動した群、(ii)学習4時間後に運動した群、(iii)全く運動しなかった群の3群に分け、48時間後に記憶力と脳MRI(磁気共鳴画像)で脳の活性化部位を検討した。その結果、4時間後に運動した群では脳の海馬で神経細胞の活性が高まり記憶力が増強していることが分かった。

 しかし、学習直後に運動した群は全く運動しなかった群とほぼ同じレベルで記憶力の改善傾向を認めなかった。ドンゲン博士は運動により分泌が促進されるドパミンやノルアドレナリンなどの化学物質が記憶の定着にプラスに作用している可能性を指摘する。

 現在でも記憶のメカニズムは必ずしも詳細には理解されていないが、認知症を予防するためにも学習と運動の組み合わせは重要と考えられる。今回の研究では運動のタイミングの重要性が確認された。

■白澤卓二(しらさわ・たくじ) 1958年神奈川県生まれ。1982年千葉大学医学部卒業後、呼吸器内科に入局。1990年同大大学院医学研究科博士課程修了、医学博士。1990年より2007年まで東京都老人総合研究所病理部門研究員、同神経生理部門室長、分子老化研究グループリーダー、老化ゲノムバイオマーカー研究チームリーダー。2007年より2015年まで順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。2015年より白澤抗加齢医学研究所所長。日本テレビ系「世界一受けたい授業」など多数の番組に出演中。著書は「100歳までボケない101の方法」など300冊を超える。