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「迷惑かけるね、ごめんね」 認知症になった母の「帰って来てほしい」という本音【ぼけますから、よろしくお願いします。】

ある年の元旦に、認知症発症後の母親が発した言葉がタイトルになった映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』。ディレクターの信友直子さんが監督・撮影・ナレーターを務めたこの作品は、ミニシアター単館上映で2018年11月から公開されるや話題を呼び、上映館全国100館近く、動員数10万人を超えるドキュメンタリー映画としては異例のヒットとなっています。

 陽気でしっかり者の母親が徐々に「出来なくなっていく」一方、家事はいっさい妻任せで90を超えた父親が「やらなければならなくなる」様子を時に涙ぐみ、離れて暮らす自責の念や夫婦・家族の絆を噛みしめつつ見つめる娘。そして、認知症はどう進むのか、家族に認知症患者がいるとはどういうことか、老老介護の現実とは……それらを冷静に記録していこうとする取材者――2つの立場で踏ん張り、あるいはその間で揺れながらカメラを回し続けた信友さんが、映画に盛り込めなかった数々のエピソードを語り尽くす好評連載です。

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 私が呉の実家に帰省する時は、広島空港からのバスが実家の近くに停まるので、飛行機を利用することが多いです。2014年も2015年も、2人だけでひきこもる両親が気になって5回ほど帰りました。

 このころは帰省するたび、空港からのバスに乗ると、どんどん気持ちが重くなり胸が苦しくなっていました。実家が近づくにつれて、不安が高まってくるのです。

 母はどんなふうになっているだろう? 

 会わない間に病状が進んでいないだろうか? 

 電話で話す限りは、私のことはわかっているようだけど、私の顔を見て万一わからなかったらどうしよう? 

 あれこれと不吉な考えが浮かび、どんどん帰るのが怖くなってきます。

 母が元気だったころは、同じバスに揺られながら、早く両親に会いたいな、どんな顔して迎えてくれるかな、とワクワクしていたことを思い出しました。

 それがどんなに恵まれた、ありがたい状況だったか。今さらながらに思い知り、涙があふれます。

 私が若いころには、父と母2人して、バス停まで迎えに来てくれたこともあったなあ。父が私の荷物を「あんたはいっつも大荷物じゃのう」と言いながら持ってくれて、3人で肩を並べて実家に向かったっけ。

 あの頃は、父も母も早足で、元気に歩いていたなあ……。

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