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がんは「生活習慣病」だ! 万病を退けるために覚えておくべきこと

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がん、アルツハイマー病、糖尿病、アトピー性皮膚炎、老化……万病には「慢性炎症」という原因があった! 最新免疫学の成果から「慢性炎症」を徹底解剖し治療法・予防法を紹介したブルーバックス『免疫と「病」の科学』。
著者が特別エッセイで分かりやすく「慢性炎症とは何か」を改めて解説します! 
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がんは「生活習慣病」だ! 万病を退けるために覚えておくべきこと

慢性炎症の起きている組織は危ない Photo by iStock

私たちは「慢性炎症」の脅威を知らない

 慢性炎症は、万病の根底に存在し、現代医学ではわれわれの健康長寿を阻む最大の原因の一つとされている。しかし、不思議なことに、このことを知る人は決して多くはない。

 これはなぜであろうか? 
 もともと日本人は、季節を含む周囲の微妙な変化を感じ取り、その成り行きを受け入れながら生活をしてきたが、ディジタル社会の出現とともに、表面に顕著に現れるもののみを追うようになってきた。その結果、0か1か、全か無か、という悉無律的思考に依存するようになり、その中間に淡く存在するものにはあまり注意を払わなくなってきたように思われる。

 慢性炎症のような一見おぼろげで表に見えにくいものは、今の日本人にとっては興味を惹きにくい存在であったのかもしれない。

 そもそも炎症とは、本来はからだを守るための一過性の生体反応である。われわれの体内に病原体が侵入してくると、血液中の白血球がその組織に入り込んで病原体を追い出すとともに、傷んだ組織の修復が始まり、やがて傷が癒える。

 この一連の反応が炎症とよばれる現象で、通常は自然に消退する反応である。

 ところが、この反応がうまく収まらずにだらだらと続くと、炎症を起こしている組織では細胞が傷ついて死に、線維成分が増えて組織の構築が変わり、硬くなり、組織全体の機能が低下してくる。そして、炎症の影響がやがては全身に及ぶようになる。これが慢性炎症である。

 このようなことが動脈の壁で起きれば動脈硬化につながり、さらには、心筋梗塞や脳梗塞の原因となる。慢性炎症が肺で起きれば肺線維症に、肝臓で起きれば肝硬変に、皮膚で起きればアトピー性皮膚炎に、そして脳で起きればアルツハイマー病につながる。

 肥満の人の脂肪組織では慢性的に炎症が起きていて、その影響がすい臓に及ぶと、糖尿病が始まる。さらに困ったことに、慢性炎症が起こっている組織ではがんができやすくなる。

 つまり、実は、アルツハイマー、動脈硬化、糖尿病、がんなどを含むもろもろの現代人の病気の根底に慢性炎症が存在し、それが諸悪の根源であることが、最近の医学の進歩とともにわかってきたのである。

 欧米ではすでに15年以上も前から、慢性炎症が目には見えにくい恐ろしい存在であることから、サイレント・キラーと名付けられている。

 しかし、日本では慢性炎症の危険さに関する認識がこれまで比較的薄く、国の医学研究の中枢を担う国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が慢性炎症に対する研究に重点を置くようになったのはここ数年のことである。

 私はこの研究の中で研究開発総括(まとめ役)を仰せつかり、国内の選り抜きの優れた研究チームとともに慢性炎症の正体を暴くことに努めてきた。その結果、幸い、慢性炎症の姿が次第にはっきりと捉えられるようになってきたのである。

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