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年間10万人死亡、心臓発作は丈夫で元気な人にも襲い掛かる

英語の「シアー・ハート・アタック」は直訳すると“突発的な心臓発作”のことだが、実は「暗殺者のナイフ」「心臓を一突き」を意味する隠語でもある。つまりそれほど怖ろしく、かつその危険に気づきにくいということだ。あなたを襲う見えないナイフは、すぐそこまで迫っているのかもしれない──。

人間ドックでは「異常なし」

 心臓性の突然死で亡くなる人の数は、日本全国で毎年約10万人いると推計されている。

「自分は体が丈夫だから」「動悸や息切れもない」だから、「心臓発作とは無縁のはず」──そう考える人は多いが、その怖さは、「自覚症状なしに、いきなり襲ってくる」ことにある。

 定年後、妻と二人暮らしをしていた70代のA氏は、とくに健康面の不安はなく、人間ドックでも異常なし。病院や薬に頼らず元気な生活を送っていた。ところが、普段より冷え込んだ1年前の秋の日の朝、日課の散歩から帰宅し、「さあ、ひと風呂浴びるか」と浴室に向かったA氏を異変が襲った。

 妻が振り返る。「主人はいつもなら15分くらいでサッと湯船からあがるのに、いつまで経っても出てこなかったんです。入浴中のお決まりだった口笛の音も聞こえないので、心配になって声をかけても返事がありません。急いでドアを開けて様子を見たら、浴槽によりかかるように、ぐったりと倒れていたんです」

 

 ただちに救急車を呼び、緊急搬送されたが、意識を失ってから30分以上が経過していた。救急隊員にも助ける術は残っておらず、そのまま息を引き取った。

「若い頃から運動好きで、丈夫な体だけが取り柄みたいな人だったのに……。あんなにあっけなく逝ってしまうなんて、今でも信じられません」

◆運転中に意識を失って……

 突如として突き付けられる死──本人の無念もさることながら、残された遺族の悲しみも深い。

 昨年末、60代後半のB氏は電車内で倒れた。その日、サラリーマン時代の同僚との飲み会があったB氏は、準備に手間取って時間ギリギリで家を出た。駅に着き、ホームへの階段を駆け上って発車寸前だった電車に飛び乗った。

 何とか間に合い、ホッと胸をなでおろしたB氏だったが、その直後、呻き声をあげて胸をかきむしり、その場に倒れ込んだ。B氏の妻が回想する。

「次の駅に到着すると同時に、駅員がAED(自動体外式除細動器)で救命処置をしましたが、間に合いませんでした。私が駆けつけた時はすでに息はなく、首や胸のあたりに残る夫の爪痕が痛々しかった。

 持病もなく、家を出る時は本当に元気でピンピンしていたのです。慢性的な病気を抱えていたというのであれば“覚悟”もできたのでしょうが……」

 

 突然やってくる危機を、寸前で免れた経験を語るのはC氏(70)だ。

「自宅近辺で車を運転していた時でした。ほんの数秒でしょうか、ふっと意識が遠のいて、気づいた時には、赤信号の交差点を直進する寸前だったんです。慌てて急ブレーキを踏んで事なきを得ましたが、危うく大事故を引き起こすところでした。あと1秒、反応が遅れていたら……と今でもゾッとします」

 A~C氏に共通するのは、70歳前後を迎えていても、いずれも健康に不安がなく、むしろ自信を持っていたということだ。ではなぜ突然倒れたのか。思いがけない発作のトリガー(引き金)となるのが不整脈だという。

 不整脈の患者は、近年増加している。厚労省・患者調査によれば、受診者数は2008年には37万人、2011年は45万人、2014年には52万件と増え続けている。

 正常な心臓は、1分間に約50~100回脈を打ち、1日に約10万回拍動する。しかし、様々な原因で脈拍数が変動し、リズムが乱れる状態を引き起こすのが不整脈だ。心臓血管研究所所長の山下武志医師が指摘する。

「実は、日本人の約9割が不整脈を持っていると言われています。厄介なのは、発生が“いつ起こるか分からない”ことです。脈拍は常に乱れているわけではなく、様々な要因で“いきなり”乱れるのです」

 

 息が上がる、心臓がドキドキする、めまいを覚えるといった自覚症状は分かりやすいが、日常的に脈拍数を意識しているわけではない。だからこそ気づきにくい。

 脈拍を測る方法はシンプルなので、まずは自分が不整脈かどうかを調べてみてほしい。右手の人差し指、中指、薬指の3本の腹で、左手首の親指側に触れると、脈拍を感知できるポイントがあるはずだ。1分間に50回以下、もしくは100回以上脈を打っている場合や、リズムに規則性がない場合には、不整脈の可能性がある。

 ただし、「脈の不規則さ」には様々なパターンがあり、「自分で測って大丈夫と安心するのも危険です」(同前)という。

※週刊ポスト2018年10月5日号