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誤嚥(ごえん)性肺炎の予防には口腔ケアが大切(月刊糖尿病ライフ さかえ)

「健口」、すなわち歯と口を健やかに保つことは、糖尿病治療にも大きく関係します。歯科医師の先生に、大切な健口に関するお話をしていただきました。
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■ 日本人の死亡順位の推移
 2014年度の日本人の死因順位は、悪性新生物(がんなど)が第1位、心疾患が第2位、肺炎が第3位となっています(表)。

 1950年代には結核が第1位という時代もありましたが、健康診断や、予防法、治療薬や栄養状態の改善で75年ごろから10位以下になりました。近年では悪性新生物が第1位、心疾患が第2位という状態が長く続いています。

 2011年ごろまでは脳血管疾患が第3位に入り続けていましたが、12年ごろから肺炎が第3位に定着しています。最近テレビで肺炎や肺炎のワクチンの接種を勧めるコマーシャルがよく流れていることからも、高齢者の肺炎が注目されていることが分かると思います。脳血管疾患、いわゆる脳卒中は80年代までは死因第1位でしたが、治療法が進歩して死亡に至ることが少なくなってきたことも順位を下げた一因となっています。

■ 誤嚥(ごえん)性肺炎とは?
 それでは、なぜ肺炎が死因第3位に上がってきたのでしょう。先ほど例に挙げた結核と同じく、肺炎も細菌などによる感染症ですから、過去の病気という印象が強いかもしれません。しかし、特に2014年の90歳以上の男性に限ると肺炎が死因第1位となっています。これには誤嚥も関係していると思われます。高齢者になると飲み込む機能が低下しやすく、お口の中の汚れなどが食道ではなく気管の方に入ってしまい、肺炎を起こしてしまうことがあります。これが誤嚥性肺炎と呼ばれています。

■ 口腔ケアと肺炎
 一方次のようなデータもあります。1991年に東北大学の佐々木英忠教授らが、肺炎を発症して治癒した高齢者と肺炎になったことのない高齢者とを比較したところ、肺炎になったことのない高齢者では10%の人にしか肺の内へ細菌が入り込むのが見られなかったのに対し、肺炎を起こした高齢者では約70%の人に見られたというものでした。このことから、お口の中の細菌が飲み込まれることが肺炎の原因である可能性が示されました。さらに、99年に、静岡県で開業されている歯科医師の米山武義先生らが「ランセット」という海外の医学雑誌に発表した研究では、要介護老人ホームで2年間調査を行い、その間に37.8℃以上の発熱が7日以上みられた入所者数、肺炎発症者数、肺炎による死亡者数をそれぞれ比較したところ、専門的な口腔ケアを行ったグループ(口腔ケア群)では口腔ケアを行わなかったグループ(対照群)に比べて、発熱を起こした高齢者は14%、肺炎を発症した高齢者は8%、肺炎による死亡者は9%少ないという結果が得られました。

 また、95年の阪神淡路大震災の際にも、この誤嚥性肺炎の可能性を示すデータがあります。この大震災による死亡者6434人のうち、圧死などの直接死は5512人で、震災後2カ月以内に亡くなられた方たちは「震災関連死」といわれ、922人にも上りました。中でも、肺炎によって亡くなられた方が223人と最も多かったのです。この苦い経験を生かし、東日本大震災では、被災した直後から歯科関係者が避難所での口腔ケアに活躍したことは、まだ記憶に新しいかと思います。

 高齢者、特に要介護高齢者にとってお口を清潔に保つ口腔ケアは誤嚥性肺炎を防ぎ、さらに、おいしく食べることなどの生活の質(QOL= quality of life)の向上につながります。このことは当然、要介護状態になる前からお口の状態を良くしておくこと、つまり定期的な歯科健診が重要になります。加えて、最近では少なくなりつつありますが、脳卒中などでリハビリ中に口腔ケアがおろそかになり、特に手にまひが残ったケースなどでは、体は回復しても、お口の中は惨憺(さんたん)たる状態になってしまうこともありました。急性期からリハビリまで、切れ目なく口腔ケアが行われるように、歯科医師も努力を続けています。

はね歯科医院 院長
羽根司人(はね・もりと)

※『月刊糖尿病ライフさかえ』2016年5月号より