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O157新薬開発に期待 大腸菌の「呼吸酵素」構造解明

九州工業大大学院の坂本順司教授(生体エネルギー学)らの共同研究グループが、大腸菌内の「呼吸酵素」の立体構造を解明し、米科学誌サイエンスに発表した。呼吸酵素は生物の生存に欠かせない物質で、糖質や脂質などの栄養分と酸素を取り込んで化合させ、エネルギーを生み出す。判明した構造を基に、酸素の通り道をふさぐ薬を開発すれば、病原菌を死滅させることができ、坂本教授は「腸管出血性大腸菌O157を含む病原性大腸菌などの新薬につながる可能性がある」としている。

【写真】坂本順司教授

 構造が明らかになったのは、呼吸酵素の一つ「シトクロムbd型酸化酵素」。大腸菌(単細胞生物)の細胞膜にあり、膜の内部に溶け込んだ酸素分子と、栄養分を取り込み、化合(酸化)させてエネルギーを作っている。

 坂本教授は2016年、ドイツのノーベル化学賞受賞者ハートムート・ミヘル教授と、熱に強い「好熱菌」の呼吸酵素の立体構造を解明。現在、多くの研究者がこの成果を基に、好熱菌と同じように細胞壁が厚い「結核菌」で働く呼吸酵素の構造解析に取り組むなど、新薬開発に向けた動きが広がっているという。

 今回の共同研究グループは、ミヘル教授らドイツの2研究室が中心となり、坂本教授のほか、京大や米仏の研究者が参加。大腸菌からbd型酸化酵素を取り出し、酸素の通り道などを明らかにした。

 坂本教授によると、O157の治療薬は現在、生存に不可欠なタンパク質を合成する構造体の働きを阻害するものが代表的。ただ、病原菌は薬剤への耐性を得ていくため、多様な薬が必要とされる。坂本教授は「呼吸酵素内の『酸素の通り道』に別の物質を付着させ、酸素を遮断する薬剤ができれば、これまでと全く違う画期的な薬になる」としている。 (田中早紀)