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「あなたは認知症ではない」 若年性診断から10年後の告知

ひどく混乱

 認知症の当事者たちを支援する「たぬき倶楽部(くらぶ)」の代表で、自らも59歳で若年性認知症と診断された竹内裕さん(70)=広島市西区=は昨年春、主治医から衝撃の告知を受けた。「あなたは認知症ではない」―。診断から実に10年がたっていた。「心が折れそうだったが、ここでくじけるわけにはいかん」。人生を揺さぶる若年性認知症への理解を求め、再び活動に力を入れている。

 65歳未満で発症する若年性認知症。竹内さんは2009年、広島市内の病院で「前頭側頭葉型認知症」と診断された。当時59歳。市内の会社の専務として営業の一線にいた。同僚に指示もしていないのに「なんでやってないんだ」と怒鳴る。取引で大きなミスもした。感情の抑制などが利かなくなる前頭側頭葉型の症状に当てはまっていた。

 それから10年。「認知症ではない」という告知を市西部認知症疾患医療センター(西区)で受けた。12年からセンターで経過を見ているが、記憶力の低下など症状が進行していないためだった。

 竹内さんは自身の認知症を受け入れ、60歳の時に市内のシンポジウムで苦悩や体験を初めて打ち明けた。これをきっかけに全国各地を回って講演し、17年に「たぬき倶楽部」を結成。辞職、離婚を経て、当事者として全力で活動していただけにひどく混乱した。「最初の診断は何だったのか。これからどうすれば…。にわかに信じられなかった」

「あり地獄にはまった」

 厚生労働省の09年の調査では、全国の若年性認知症の当事者は約3万8千人。発症年齢の平均は51・3歳で、多くは働き盛りの世代だ。仕事の継続、家族との暮らし…。先を見通せず、認知症であることを受け入れられない人は少なくない。

 竹内さんも診断直後はそうだった。自分が自分でなくなるかもしれない恐怖がつきまとう。「あり地獄にはまった」ように落ち込み、1年ほど自宅に引きこもった。転機は中高時代の同窓会。同級生に引っ張り出されて参加し、部活などの思い出を語り合ううちに吹っ切れていったという。

 めげそうになるたび、立ち直れたのは「温かく寄り添ってくれる親友たちがいたから」と話す。デイサービスなどを手掛けるNPO法人もちもちの木の竹中庸子理事長(60)=中区=もその一人。市の認知症アドバイザーでもあり、10年にわたって支えてくれた「理解者」だ。

 竹内さんは昨年末、「認知症ではない」と告知されたことをカミングアウトする手紙を書いた。竹中理事長たちの協力も得て、全国の知人や支援団体など約450カ所に送付。共感の言葉とともに、「ぜひ講演で話してほしい」という依頼が返ってきている。

 若年性認知症の場合、発症後の人生は長い。「本人に何ができるか。諦めずに家族や職場も一緒になって見つけていくことが前を向き、自立して暮らす一歩になる」。それは竹内さんが身をもって経験してきたことだ。「俺は認知症予備軍に戻っただけ。いつまた発症するか分からんが、心構えはできとるよ」

中国新聞社