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「回想法」とボディータッチでコミュニケーション 専門家「認知症の方の不安を理解することが大事」 続「心の老い」は克服できるか

【続「心の老い」は克服できるか】

 認知症や老人うつの患者は、一般人には理解できない言動、行動をとるので、対応に困っている家族が多いという。どうすればいいのか? 医師でジャーナリストの富家孝氏が、精神科医の吉竹弘行氏に聞く。

 --認知症の最大の問題は記憶障害、見当識障害で、徘徊(はいかい)は自分の家を思い出せなくなって起こると言いますね。記憶障害を起こしている患者を叱る家族がいますが、これがいちばんやってはいけないというのは本当ですか?

 「そうです。どんな場合でも相手を叱ったり、非難したり、怒鳴ったりしてはいけません。脳が正常なとき、人間は理性で生きていて、言動、行動は論理的ですが、認知症になると理性は失われ、感情のままの行動、言動が多くなります。感情を傷つけてはいけないということです」

 --具体的に言うと?

 「たとえば、認知症が進んで、トイレの便器に自分が着ている洋服を脱いで入れたという方がいました。家族は、『なにやってんのよ』と怒ったのですが。この場合、『あら洗濯をしようとしているの。ありがとう』と言うべきです。洗濯機と便器の区別がつかなくなっているからです。人間にはプライドがあり、それを傷つけると、言動、行動はさらにめちゃくちゃになります」

 --同じことを繰り返し言う。相手が分からず、名前を言い間違えるなどという場合は?

 「同じことを繰り返し言うのは、直前の記憶が失われるからです。記憶は古い物の上に新しい物が重なって地層のようになっていると考えてください。認知症が進むと、もう新しい地層が重ならなくなり、過去の地層も失われていく。つまり、古い地層しか残っていない。だから、子供の頃の話はわかりますが、いま食事をしたことなどはすぐ忘れます」

 「ともかく聞いてあげ、何度でもいいからうなずく、同じ答えをしてあげることです。人の名前を間違えて訂正したとしても、もう記憶できないので無駄です」

 --だんだん怒りっぽくなり、暴れたりするようになるのは、接し方のせいというわけですね

 「いちがいには言えませんが接し方がまずいとなりがちです。認知症の方は不安を抱えている。本人がいちばん不安なのです。これを理解し、コミュニケーションを取っていくことが大事です」

 --コミュニケーションについて、精神科医としてはどう考えますか?

 「2通りありますね。言語コミュニケーションと非言語コミュニケーションです。言語コミュニケーションでは、『回想法』が有効とされています。患者さんの子供の頃の話を意識的にするのです。子供の頃の写真や歌った歌などを入り口にして話をする。そうすると脳は活性化し、情操の安定が図れます。話すときは目線を合わせて、耳の近くで、ゆっくり大きな声で話します」

 「非言語コミュニケーションはケアの現場で行われていて、いわゆるボディータッチです」

 --老人うつの場合はどうですか?

 「認知症と同じように、コミュニケーションを取り、本人が好きな趣味、歌、ゲーム、囲碁、将棋などを行います。気持ちを前向きにさせるためです。うつと言うと、ともかく休ませることがいいと思いがちですが、休ませすぎは悪化させます。身体を動かすことも脳を刺激するので、一緒に散歩や何らかの作業をするべきです」

 ■吉竹弘行(よしたけ・ひろゆき) 1995年、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)卒業後、浜松医科大学精神科などを経て、明陵クリニック院長(神奈川県大和市)。著書に『「うつ」と平常の境目』(青春新書)。

 ■富家孝(ふけ・たかし) 医師、ジャーナリスト。1972年東京慈恵会医科大学卒業。病院経営、日本女子体育大学助教授、新日本プロレスリングドクターなど経験。『不要なクスリ 無用な手術』(講談社)ほか著書計67冊。