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「難聴」は認知症の危険因子 うつ病リスク2.4倍とのデータも
65歳の2~4割、75歳以上で約半数が悩まされる「難聴」。「歳を重ねれば、誰だって耳が遠くなる」と思っていないだろうか。しかし、難聴が様々な疾患につながっていくケースは少なくない。
老人性難聴が引き起こしやすい疾患としては、まず認知症が挙げられる。相手の話していることが聞き取りにくくなると、だんだん話すことが億劫になり、相手の話を聞かなくなってコミュニケーション能力の低下を招く。
『あぶない! 聞こえの悪さがボケの始まり』の著者で、川越耳科学クリニック院長の坂田英明医師が解説する。
「耳から入った音は脳に達し、記憶を司る海馬や、喜びや不安のもととなる扁桃体などを含む大脳辺縁系を刺激します。難聴になるとこの刺激が少なくなって脳機能が低下し、認知症やうつ病を発症しやすくなる。人との会話を避け、孤立化することで症状がさらに進みやすくなる。
認知症の発症リスクを最も高めるのは加齢で、それに次ぐのが難聴です。認知症の人の80~90%が難聴を患っています」
2015年に厚労省が発表した「認知症施策推進総合戦略」でも、聴力の低下と認知症には深い関連があると言及されている。
2017年には国際アルツハイマー病会議が「難聴は認知症の最も大きな危険因子」と発表。また、米国の成人1万8318人を調査した研究では、中等度聴覚障害群のうつ病リスクが2.4倍に達したという報告がある。
「他にも、耳鳴りやめまい、さらには自律神経や内分泌を司る脳の視床下部という部位の機能低下によって身体の免疫力も落ちてしまうことがあります。インフルエンザや新型コロナ肺炎など細菌やウイルスによるあらゆる感染症にかかるリスクが高まります」(同前)
こうした感染症は高齢者のほうが重篤化し、死に至ることが多い。難聴は“死の病”につながっているともいえる。
2011年に米サニーダウンステート医療センターが発表した研究では、「内耳が弱って難聴になっている人は、同時に平衡感覚も衰えてしまい、転倒しやすくなる」とも分析している。歳を重ねてからの骨折は寝たきりの原因にもなり、それをきっかけに要介護状態となるケースが多いことでも知られている。
また、老人性難聴が重大疾患の“サイン”だと考えられることもある。動脈硬化による心疾患や脳血管疾患がそれにあたるというのだ。
「血管条と呼ばれるクモの糸のように細い内耳の血管は、動脈硬化によって血流が滞ったり、途絶えたりといった影響を受けます。その結果、内耳に障害が出て難聴が生じやすくなる。糖尿病や高血圧の人で耳が聞こえにくくなったという場合、動脈硬化の進行を疑う必要があるといえるでしょう」(同前)
※週刊ポスト2020年3月20日号