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音楽療法、いきなり「ウクレレ」には参ったけど…嫌いな音楽が好きになった MCIリバーター・軽度認知障害回復奮闘記
【MCIリバーター 軽度認知障害回復奮闘記】
MCI(軽度認知障害)の症状を良くするためなら多種多様なデイケアのトレーニングを何でも試みようと決意した僕だったが、音楽療法の時間に臨んだときは、実は憂鬱だった。何しろ小学校や中学の授業では歌といえば口パク、音楽の評価は5段階評価の2以上は取ったことがない。校歌だってまともに歌えた覚えなし。就職してから仲間とカラオケに行っても音痴で恥をさらした。テレビの歌番組も嫌いだった。
デイケアで歌っても初めは口パクでゴマかしていたが、指導する折山もと子さんにすぐに見つかってしまった。学校では50人ぐらい生徒がいたから隠れることができたが、デイケアではそうはいかない。折山さんは許してくれなかった。
「山本さん、下手でもいいから思いっきり声を出しましょう。口パクは厳禁(現金)1000円ですよ(笑)」と明るく警告された。
合奏ではいきなりウクレレを持たされた。隣の佐々木慶太郎さんは持参したマイウクレレだ。僕にとってウクレレは前代未聞。CとかFとかG7といった聞きなれないコードを示す単語が飛び交う中、僕は佐々木さんに教わりながら必死についていこうとする。だけど指が言うことを聞かない。
指1本で押さえるCとFはなんとかできるようになったがG7は3本の指で弦を押さえるので厄介だ。思いと動きがごちゃごちゃになって指を正しい位置に置けないのだ。朝田隆医師の訓練にあった指の運動につながるものだな、これは。ゆっくりやれば何とかなるのだが曲に合わせてはとても無理だ。
「そういう時はどうすればいいのですか」
怖い折山さんから真っすぐな目で問われて、口をもぐもぐさせていると、「適当にごまかす、ですよね(笑)」。
「どこも押さえなくていいし、難しいところは飛ばしてもいい」
こう言われると、よしやってやろうという気分になる。混乱しながらも懸命に指を動かす。
「楽器を演奏すると、他の人の音に合わせて指を動かす。これが脳を活性化させるのです。弦楽器の演奏が脳にいいことは証明されています。興味を持った楽器を格安で購入し自宅でも練習している仲間がいますよ。佐々木さんのように。山本さん、マイウクレレでやりませんか」
折山さんにこう言われたが、僕は柄にもなく皮膚が弱い。弦を押さえるだけで指先が痛くなる。血豆ができそうだ。折山さんは「血が出て一人前」なんて言うが、勘弁してください。でも、音楽がこんなに楽しいものだったか? 初めて知った。
今ではG7のコードも何とか弾ける。まだまだ人前で演奏するのは無理だが、もっと練習すれば仲間との演奏会にも参加できるのでは。そんな気分になった。これも第3の脳が動き始めたおかげだと思っている。
■山本朋史(やまもと・ともふみ) 1952年生まれ。週刊朝日編集委員などを経て現在はフリー。2014年軽度認知障害と診断され早期治療に励む。著書に『悪党と政治屋 追跡KSD事件』『認知症がとまった ボケてたまるか実体験ルポ』など。