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「脳の神経細胞は歳とともに減る」は間違い。記憶を司る海馬の神経細胞を増やすには?

脳の神経細胞は、加齢とともにどんどん減っていく、というのが私たちの認識だ。
「確かに、それが脳科学の常識でしたが、近年、間違いだとわかったんですよ。脳の神経細胞であるニューロンの数は生まれた時が一番多く、3歳くらいまでに約70%が一気に消滅します。それ以降はほぼ一定で、100歳まで生きてもほぼ変化なし。さらに、大人になってからも、新たに神経細胞が生まれ続けている部位も明らかになりました」

そう語るのは根来秀行さん。ハーバード大学医学部PKD Center Visiting Professor、ソルボンヌ大学医学部客員教授、奈良県立医科大学医学部客員教授などを兼任。専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など多岐にわたり、最先端の臨床・研究・医学教育の分野で国際的に活躍中だ。

ところで、ニューロンの数は減らず、新たに神経細胞が生まれ続けている、というのは本当だろうか?
「はい。その部位は海馬の一部で、情報の入り口と考えられている歯状回です。海馬の歯状回を構成する『顆粒細胞』は、脳のニューロンで唯一増殖します。つまり、歯状回の細胞が多いと、海馬に入ることができる情報の容量が増え、記憶力がよくなるのです。最近の研究では、歯状回での新しいニューロンが、多くの異なった事柄や新旧の情報を結びつけ、連想を助けているという意見もあります」

しかし、年とともに細胞の新陳代謝は低下するのでは?
「いえ、歯状回の顆粒細胞の新陳代謝は年齢に関係なく旺盛で、次々に生まれ、次々に死んでいき、3~4カ月もあれば全ての顆粒細胞が新しく入れ替わります。まだ研究段階ですが、認知症の治療として、顆粒細胞の移植治療が期待されています」

そんな顆粒細胞を増やす方法はあるのだろうか?
「顆粒細胞の増殖率を上げる研究も進んでいて、運動によって顆粒細胞が新生することが明らかに。定期的に行える、心拍数と血流を上げる運動です。ただし、激しい運動は活性酸素を発生させてしまうので、かえって脳にダメージを与え逆効果。1日5分の筋トレプラス15~30分のウォーキングや軽いジョギング、水泳などの有酸素運動でOKです」
よく、適度な運動が健康にいいといわれるが、記憶力にも関わってくるのだ。

「あと、複雑な課題や特定の目標に集中している時や、積極的に人と交流することでも、新しいニューロンができることもわかっています」

では、逆に、ニューロンの新生を妨げるものは何だろう?
「やわらかいものばかり食べる、一人で孤独に過ごす、心身への強いストレス、過度な飲酒、麻薬などは、ニューロンの増殖を低下させることが報告されています」

アルツハイマー病などの認知症は、海馬や大脳皮質のニューロンが死んで脳自体が萎縮し、記憶力が低下すると聞くが…
「認知症は加齢とともに発病リスクは高まりますが、悲観的なイメージに縛られていると、かえって脳に悪い影響を及ぼしますよ。アメリカの大学で若者と年配者に実施した記憶テストの実験では、テスト前に“ただの心理学の試験”と説明した時は、若者・年配者の成績に差がなかった。ところが、“通常高齢者のほうが成績は悪い”と説明して同じ試験を行ったところ、若者の正解率は変わらなかったのに、年配者は低くなりました。つまり、ネガティブな自己暗示は記憶力を低下させるんです。いつまでも記憶力を高く保つには、くよくよしない能天気さも大切です」

適度な運動、課題や目標に集中すること、人との積極的な交流、ポジティブな思考…これを日々こころがけよう。

取材・文/石丸久美子 イラスト/浅生ハルミン