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日本人10人に1人がかかっている?「過敏性腸症候群」とは

仕事やプライベートで緊張を強いられるシーンで急にお腹が痛くなるという人は、ストレスにより腸が必要以上に活発になったり、知覚過敏になっている可能性が考えられます。今回は、「過敏性腸症候群」について見ていきます。※本記事では、藤田胃腸科病院理事長・院長の本郷仁志氏が、胃腸の健康に関する正しい知識や、氏が普段の診療の中でアドバイスしている健康維持の秘訣等を紹介します。

日本人10人に1人がかかっている?「過敏性腸症候群」とは

[図表1][図表]ブリストル便形状尺度

平均して1週間につき1日以上「腹痛」が繰り返される

【心得その1】

若者層に増加中!過敏性腸症候群に気を付けろ

さて、ここからは腸の病気について見ていきます。胃のところでも触れましたが、腸の病気にも「器質的疾患」と「機能性疾患」とがあります。不調の原因が目に見える(内視鏡で確認できる)のが器質的で、できないのが機能性でした。

器質的疾患の代表的なものは「大腸がん」や「小腸がん」、近年増加している「潰瘍性大腸炎」や「クローン病」など。

一方、機能性疾患のなかで近年、注目を集めているのが「過敏性腸症候群」です。大腸に炎症や潰瘍が確認できないにも関わらず、お腹が痛くなったり、お腹に不調を感じたり、それに伴い便秘や下痢を引き起こすという病気で、日本人の10人に1人がかかっているといわれています。直接命に危険が及ぶことはありませんが、日常生活への影響は少なくないため、早めの対策を講じたい疾患です。

過敏性腸症候群が起こる明確な理由は分かっていませんが、最近の研究では「不安(ストレス)」と深く関わっているのではないかという説が有力になっています。例えば、学生時代の大切なテストのときや、仕事やプライベートで緊張を強いられるシーンで、急にお腹が痛くなった経験がある人もいるのではないでしょうか。

腸と脳には深い関わりがあり、脳がストレスを感じると腸の働きが必要以上に活発になったり、あるいは痛みを感じやすい知覚過敏になったりすることが分かってきました。これを「脳腸相関」と呼びますが、過敏性腸症候群の人はその傾向が強いと考えられるのです。

そのため、過敏性腸症候群は比較的真面目な人や内向的な人、不安を感じやすい人、うつ傾向のある人によく見られます。統計的には男性より女性が多く、高齢者より若年層の患者さんが多くなっています。

一方で、細菌やウィルスによる感染性腸炎を患ったことのある人は、その病気が治ったあとに過敏性腸症候群になりやすいともいわれています。感染性腸炎はそれほど珍しい病気ではないので、誰もが過敏性腸症候群になってしまう可能性があるということです。

過敏性腸症候群の診断基準は、次のようになっています。

・直近3ヵ月のうち、平均して1週間につき1日以上、腹痛が繰り返される。

・それに加えて、次のいずれか2つの症状が見られる。

(a)排便をすると症状が和らぐ

(b)排便の回数が減ったり増えたりする

(c)便が硬くなったり軟らかくなったりする

過敏性腸症候群の主な症状は腹部の痛みや不快感を伴う便通異常で、そのタイプは「便秘型」「下痢型」「混合型」「分類不能型」の4つに分類されます。分類の基準となるのが「ブリストル便形状尺度」という評価スケールです(図表1)。

タイプ1とタイプ2に当てはまる人が便秘型の過敏性腸症候群。下痢型の人はタイプ6とタイプ7に、混合型はその両方(どちらにもなる)、そして分類不能型は形状では判断できないタイプ(ガスが関与するケース等)ということになります。男性に多いのが下痢型、女性は便秘型が多いという傾向があります。

先ほど、過敏性腸症候群は命に関わる病気ではないと言いましたが、機能性ディスペプシアや胃食道逆流症など、他の機能性疾患の病気と合併しやすいという特徴を備えています。

炎症などが見られないのに胃の痛みやもたれを感じるのが機能性ディスペプシア、胸焼けや呑酸を感じるのが胃食道逆流症でした。過敏性腸症候群でこうした病気を合併する患者さんの割合は、健康な人に比べて2倍以上と考えられています。さらに、うつ病やパニック障害を引き起こす可能性があるともいわれます。

過敏性腸症候群の予防としては、不安・ストレスをできるだけ軽減させるライフスタイルを心がけることです。喫煙や飲酒などの悪い習慣を減らし、睡眠時間をしっかり確保するなど、自分なりに工夫する必要があります。残念ながら過敏性腸症候群には明確な予防策はありませんが、不安を減らすように心がけることは大切だといえるでしょう。

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