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認知症予防も期待できる!?脳の「ゴミ出し機能」をフル回転させる眠り方とは?
視床下部は、脳の奥にある『間脳』の一部です。アーモンド粒大のごく小さな器官ですが、生命維持の中枢を担っています」と、根来秀行教授。ソルボンヌ大学医学部客員教授、奈良県立医科大学医学部客員教授など多くの大学で活躍。専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など多岐にわたり、最先端の臨床・研究・医学教育の分野で国際的に活動している。
いわば”脳の司令塔”でもある視床下部。自律神経とホルモンという二大制御機構を司り、体が本来持っている機能を最善に保つ中枢だ。最近の研究では、視床下部が老化速度の鍵を握っているのではないか、とされている。
「視床下部の機能を高めるには脳内環境をよくすることが大事です。そこで鍵になるのが睡眠と食事。今回は眠り方について、寝ている間に脳の老廃物をお掃除してくれる『グリンパティックシステム』を、効率よく働かせる眠り方を伝授します」
「グリンパティックシステム」とは、脳にあるグリア細胞が血管と一緒に働いて、脳内に構築しているリンパ系システムのこと。通常、体の細胞から排出された老廃物を運搬し処理するには、リンパ系がその役割の中心を担う。だが実は、脳内ではリンパ系システムが見つかっていなかった。グリンパティックシステムはリンパ系の働きをしていると考えられ、効率よく働けば、より脳の”ゴミ出し機能”が高まると考えられる。
「アルツハイマーの原因物質ともいわれる”アミロイドβ”も、おもに睡眠中に排出されるので、グリンパティックシステム機能がよい状態で維持できれば、認知症予防も期待できますよ」
さて、グリンパティックシステムが働くのは、ノンレム睡眠の最も深い眠りのときだが、
「よく”ノンレム睡眠=深い眠り”と勘違いされるのですが、ノンレム睡眠には4つの段階があり、本当に深い眠りは多少の物音では起きない『レベル4(深度4)』。寝入りばなの1.5~3時間に訪れ、成長ホルモンの分泌もこのときピークを迎えます」と根来教授。しかし3時間だけ睡眠を確保すればよいというものではない。
「その通りです。それだけでは毛細血管が成長ホルモンを全身に運ぶ時間が担保されず、傷ついた細胞を修復することができませんし、脳を掃除する時間も足りません。その悪影響は睡眠不足が続くほど借金のように蓄積します。このような睡眠負債は、慢性疲労を招いて生活の質を落とすだけでなく、がんなど命にかかわる病気のリスクも高めることがわかっています」
では、睡眠中にグリンパティックシステムを効率よく稼働させる睡眠とはどんなものだろう?
「理想的な睡眠時間、7時間睡眠を心掛けましょう。それより短くても長くても、心臓病の心臓病の発症率や死亡率を増やすというデータがあります。6時間睡眠が1週間続くと、集中力や免疫力の低下などさまざまな負の因子が出てきます」
どうしても睡眠を削らなくてはいけない場合はどうすれば?
「それでも最低4時間半は確保し、翌日はその分早めに寝て、1週間のうちに睡眠負債を返済したいものです。多少の睡眠不足であれば、昼食後に15分間の昼寝をして脳を休めることをすすめます。横になれなくても、目をつぶっているだけでも効果があります。眠る前に腹式呼吸やマインドフルネスを行うと、脳が休まってストレスが軽減し、寝つきがよくなりますよ」
取材・文/石丸久美子 撮影/森山竜男 イラスト/浅生ハルミン