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入院中に家族が認知症かもと疑う「意外な症状」の正体

「母が心筋梗塞で入院したので荷物を届けに行ったら、ぼんやりしているだけでなく、病院にいることが分からなくなっていた。突然、認知症になることはあるのか」と相談を受けたことがある。この場合、認知症ではなく、「せん妄」を起こしていることがある。せん妄を起こすと家族は慌ててしまうが、どう対応すればいいか。(医療ジャーナリスト 福原麻希)

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● 突然、一時的に混乱する病気 性的な幻覚を見ることもある

 せん妄とは、病気やケガ(図参照)、あるいは手術時の麻酔薬や鎮静剤などの薬剤で脳や体に負荷がかかったとき、意識が朦朧(もうろう)とするだけでなく深くなるなど変動もすることで、「会話のつじつまが合わない」「場当たり的な返事を繰り返す」「直前のことを思い出せない」「人がいないのに『人がいると』と言ったり、話しかけるようなそぶりを見せたりする」などの症状が起こることだ。(*1)

 冒頭の事例は、突然、入院したことで生活環境が変わったため「病院にいることが分からない」「意識が曇って、ぼんやりしている」など、せん妄による症状が起きていた。

 このほかにも、せん妄を起こすと「治療していることを忘れて、点滴やチューブを抜こうとする」「ぼんやりしていると思ったら、突然、息子の名前を大声で呼んでいたりする」「看護師さんに『あなた、誰?急に家の中へ入ってくるからビックリしたわ』と言う(病院と家を間違える、誰がいるかわからなくなる)」等も見られる。

 *1 小川朝生,何か見えるといって徘徊する(せん妄),薬事,2018
 American Psychiatric Association: Diagnostic and Satistical Manual of mental Dosorders, 5th edition, American Psychiatric Publishuing,2013

 実は、せん妄は急性期病院(ケガや病気の状態が不安定で、治療が必要な時期の病院)へ入院する患者の約3割に見られるほど、ありふれた疾患という。一般に知られていないため、家族が患者の変貌ぶりに慌てることは多い。だが、その症状は一時的で時間が経過すれば元の状態に戻るため、家族は驚かなくてもよい。

 せん妄の特徴は、(1)急に症状が起こること、(2)症状が一時的なこと、(3)意識が朦朧としているときの記憶は、後から思い出したとき欠けてしまうこと、の3点だ。

 さらに、せん妄のときは「幻覚」を見ることも多い。順天堂大学医学部付属練馬病院メンタルクリニック科の八田耕太郎科長(精神医学講座教授)は、例えばこんな入院患者がいたと言う。

 「昨晩、教会に行っていましてね…」と回診時、病院のベッドで話しかけてきた女性

 「昨日、看護師に手足を縛られて。ヒドイ目にあった。人権侵害だよ!」と怒っていた男性

 「火事だ!火事が起きてる!」と叫んで、ベッドから飛び降りようとした男性

 患者はその体験をストーリーでなく、断片的なエピソードとして語る。幻覚の内容は、その人の体験談や潜在意識と関連はないとも言われている。また、せん妄や幻覚は「夢」とは異なる。夢は脳波計で区別できるそうだ。

 八田教授は「ほとんどの場合、後日、こちらから説明すると、ご自分の体験がせん妄や幻覚だったと分かっていただけます。でも、一部の方はゆがんだ形で記憶されてしまい、かたくなに被害を訴え続ける人もいます」と話す。

 海外の文献からは「薬剤による性的な幻覚」を見ることもあると報告されている(*2、*3)。

 例えば、口から内視鏡を入れる検査時、気持ちを落ち着かせるための麻酔薬を投与された女性は、検査後、担当看護師に「オーラルセックスを強要された」と話したという。

 歯の処置を受けていた女性患者は、「歯科医が陰部を握りしめるよう強要した」と言ったこともあった。集中治療室で鎮静された女性患者も、「定期的に胸をなでまわされた」と言い、訴訟にもなったという。

 *2 Balasubramaniam B,Park GR,:,Sexual hallucinations during and after sedation and anaesthesia. Anaesthesia. 2003

 *3 Yang Z, Yi B,:Patient experience of sexual hallucinations after propofol-induced painless abortion may lead to violence against medical personnel. J Anesth. 2016

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